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2008年02月22日

図書館における著作権法第三十条と第三十一条とか

某図書館系 Project のブログは不定期に更新されますが(ほとんど更新されないけど)、本日記では、図書館の話題を必ず「金曜日」に書くと決めています。増やすかどうかは検討中。

目録の著作権はどうなってるの?

先週、図書目録の著作権に関する話を書いてみたので、図書館での複製について書きます。著作権法の第三十条は「私的使用のための複製」に関する条項であり、第三十一条は「図書館等における複製」に関する条項です。

資料には著作権があります

この話題を書こうと思ったきっかけは、筑波大学附属図書館(中央図書館)に設置されたコピー機の前に、第三十一条を根拠に複製できる旨は掲示されていますが、第三十条を根拠に複製できる旨が掲示されていなかったからです(最後に顛末を書いています)。

僕が導き出した結論は、以下の通りです。

第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

第三十条(私的使用のための複製)は、図書館“で”利用者が行うことが出来ることを規定しています(もちろん図書館以外でも出来る)。

第三十一条 図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この条において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(以下この条において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。

第三十一条(図書館等における複製)は、図書館“が”行うことが出来ることを規定しています。

すなわち、私的使用の範疇であれば、図書館の蔵書も複製できることが出来る。図書館に複写を依頼すると、必要最小限しか複製できないが、私的使用を根拠に、自身で複製すれば、全てを複製することが可能です。

著作権法では、自分自身のために複製することが出来る規定がありますが(私的使用)、他人のために複製することは出来ません。その例外の一部として、第三十一条が定められているわけですね。

ここから余談ですが(余談の後ろに真面目な内容が)、面白いと思うのは、利用者が第三十条を実現するために、第三十一条を利用することが出来る可能性があるということです。

第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
  一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合

第三十条では、わざわざ「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合」を私的使用の範囲外と規定していることを踏まえると、「その使用する者が複製することができる」というのは、使用する者の労力以外の手段を用いて複製してもよいと解釈できるでしょう(私的使用したいという意思のみが求められ実現方法は任意)。仮に、使用する者の労力によってしか(手書きなど)複製が認められないのであれば(自動複製機器そのものの利用が不可)、この条件を例外にする必要がありません。

以上より、複製手段として「第三者の手」を使うことが出来ます。ただし、法律上、第三者のために複製することを許可していない点に留意してください。

「第三者の手」を図書館に置き換えてみます。図書館は、「利用者が調査研究」の目的の場合だけ複製することが出来ますが、利用者は、それを目的としなくとも、受理することは可能です。第三十一条は、図書館を縛る規定であり、利用者を縛る規定ではないから。結論を言えば、複写申請があった場合、後になって「私的使用目的でした :)」と言わせないために、書面で「利用目的」を明記させるようにしましょう、というお話。

ここまでは余談なのです :)

真面目な内容は、利用者視点からすれば、第三十条と第三十一条のどちらを利用して複製する方が「得」なのだろうか、です。

第三十一条を利用した場合、資料の一部しか複製できませんが、第三十条を利用すれば、全てを複製することが出来ます。とすると、第三十条の方が得でしょうか。必ずしもそうではないようです。むしろ、大学図書館を利用する限りは(研究目的の利用が期待されています)、第三十一条を利用する方が良いでしょう。特に、教員の方々は。

第三十条は、私的使用しか認めておらず、業務に利用することが出来ません。大学の教員は、研究が業務ですから、第三十条で複製した資料は、研究に利用することが出来ません(知的労働は業務とそれ以外が非常に曖昧ですが)。しかし、第三十一条は、調査研究であれば、業務に利用することを禁止していません。極論を言えば、営業会社が地図を「調査研究」目的で複製することが可能になっています(著作権法では利用者を自然人と定義していない)。極論ですので、実際は、図書館が拒否するものと思われます。

前記のポスターを見て色々書いたわけですが、談話室などに置かれたコピー機には、ポスターは掲示されていませんでした。ポスターが掲示されているのは、「文献複写」用のコピー機だけでした。わざわざ分けているのであれば、上記の説明をどこかに書いていても良いと思います(内容が正しいのであれば)。

コピー機は、「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合」に該当しますが、附則(自動複製機器についての経過措置)で許可されています。

第五条の二 著作権法第三十条第一項第一号及び第百十九条第二項第二号の規定の適用については、当分の間、これらの規定に規定する自動複製機器には、専ら文書又は図画の複製に供するものを含まないものとする。

当分の間が、既に20年続いている…。この附則が廃止されると、自分自身が所有するコピー機以外での複製は、私的使用の範疇外となります。コピー機を所有しているか所有していないかで、著作物の利用方法に差が出るのは望ましいものとは言えないでしょう。現に、文書以外の私的使用には、経済格差によって、差が出てるわけですよね…。

権利者側が解答を出すのであれば、自動複製機器の利用による複製は、全て、私的使用の範疇外になりそうですね。利用者側が解答を出すのであれば、複製方法の如何で、私的使用の範疇を変えないことになりそうですね。落とし所は、どの辺になるんでしょうかね。

第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
  一 ... (中略) ...
  二 技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合


出版物も電子化を進めれば「技術的保護手段」を埋め込む余地がありますから、そういう方向になるのかな。物理的地図に「技術的保護手段」を埋め込むと言う話もありましたが、法律上の「技術的保護手段」を満たすのは難しそうです(法改正で満たす可能性もありますが)。

図書館だけのつもりでしたが、一般論まで広げてしまいました。やぶ蛇怖い。

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はてなブックマーク - 目録の著作権はどうなってるの?とか - Ceekz Logs

とりあえずうちの所蔵館マップでNIIとNDLの目録読み出してるが今のところクレームはないらしい。

おお。毎回サーバに接続しているのであれば、内容に関するコントロール件を先方に預けているため、クレームが無いという事も考えられますね。何らかの方法で、全コピーして運用すればどうだろう。また、権利上問題が無くとも、サーバ負荷の関係でクレームが付くこともありそうです。

学習席は図書館とつながってても図書館じゃないという位置づけで用意したら,とか思ってたり

コピー機設置などの兼ね合いも考えれば(法根拠の明確性)、そういう方向のほうが望ましいかもしれません。ただ、図書館のラウンジ的なものがあるのが当たり前であると言うのを広げるために、図書館が主体となって欲しいですね。図書館にかかわりの無い僕が言うのもなんですが。

So-net blog:本読みの記録:図書館のラインナップについて物申す

実際のリサーチから仮説まで立てられており、面白いです。

図書館は、社会教育施設というより文化施設と認識されているからではないでしょうか。そのため、文化的書物である小説などが増える傾向があるのかな、と思っています。選書の透明化の一環で、誰が選書したのかを示すのは良いと思います。

米沢市が天地人推進室新設へ 08年度から組織機構見直し - 山形新聞ニュース

今回の改編では、体育課を社会教育課に、図書館を文化課にそれぞれ統合して業務の効率化を図る。

手前の話題と絡みますが、図書館を文化施設の一部として考えている良い例だと思います。公共図書館の管轄部署を調べた調査報告とかは、無いのかな。

World Universities' ranking on the Web: top 4000 World Ranking
つくばリポジトリ(Tulips-R)

国内では、筑波大学がベスト10入りしています。

このランキングは、サイズ(Google、Yahoo等から検索できたページ数)、可視性(総被リンク数)、リッチファイル数(pdf、ps、doc、pptファイル数)、Google Scholarによる各研究機関のドメインにおける論文及び被引用数を評価基準として算定されました。

大学図書館の取り組み如何よりも、検索エンジン最適化(SEO)次第でかなり順位が変動しそう。検索エンジン最適化に関するご相談は、是非私まで!Google サイトマップを利用すれば、かなり優位に立てる気がします。

リポジトリ評価と言うよりも、ウェブサイト評価ですよね。これ。

公文書保存 諸外国並みの本格的システムを : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
はてなブックマーク - 公文書保存 諸外国並みの本格的システムを :社説・コラム :YOMIURI ONLINE(読売新聞)

日本の国立公文書館は7年前、行政改革の一環で、総理府の付属機関から独立行政法人に移行した。職員数は41人で、米国の2500人、ドイツの800人、韓国の130人と比べ極端に少ない。

極端に少ないのは、必要性の認識もそうですが、マスコミから叩かれないように…というのもありそうです。あと、職員数で比較するよりも、専門員数で比較する方が良いと思います。

地方公共団体の公文書保存も進めて欲しいですし、公文書になっていない公的機関の書類も保存していって欲しいですね。

中国との比較を忘れている。中国の公文書館数は数千にも上る。

興味深い。

白秋、耕筰が泣いている 消えた網干町歌原本 兵庫 : 地域 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

地元の自治会は「市の図書館に寄贈した」としているが、当の図書館では「記録が残っていない」と説明しており、貴重な資料のありかは、わからないままとなっている。

市販書籍以外の管理問題として、興味深いですね。誰かが横流ししたり、誤って捨てたり…。

履歴の残る電子データで管理されていなければ、悪意を持った職員が、管理票(表)とともに持ち出すと、追跡が困難になるかも。電子データでも、履歴を消されるとダメだけど。

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素人が書いているので、突っ込み大歓迎です。可能であれば、トラックバックでお願いします。コメントで書かれた場合、初期閲覧者が、突っ込みに気づかない可能性がありますので…。

【関連情報】
・著作権法
 http://www.cric.or.jp/db/article/a1.html

2008年02月22日 23:31 | Toshokan

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» 著作権法三十条に噛み付いてみる from モルダー、あなた疲れてるのよ。
突っ込み大歓迎とあるので、トラックバックしてみました。 著作権法第三十条と三十一条についてのぼくの見解はこうです。 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2008年07月16日 02:23

» Q20:図書館内で自由にセルフコピーをさせているのですが… from ピリ辛著作権相談室
Q:はじめまして。私は都市部のとある公立図書館で司書をしている公務員です。たまた [続きを読む]

トラックバック時刻: 2008年08月16日 01:42

コメント

>第三十条は、私的使用しか認めておらず、業務に利用することが出来ません。

授業に使う目的なら、(教員も学生も)第35条で認められています。

>この附則が廃止されると、自分自身が所有するコピー機以外での複製は、私的使用の範疇外となります。

「公衆(=不特定多数)の使用に供することを目的として設置されている」のでなければよいのです。たとえば、ある学科のメンバー(特定多数)だけが使えるコピー機とか。

投稿者 M : 2008年02月24日 12:44

>> M さん
第三十五条を忘れていました。ありがとうございます。
教育機関の定義が他の法律(学校教育法など)を準用しない点や、研究室のゼミは「授業」に相当するのかなど、興味深いです。

投稿者 ceekz : 2008年03月05日 19:47

図書館における全ての複製は図書館が主体となって行うものであり、三十条の私的利用のための複製は適用されません。
三十一条をよく読んでください。この条文は図書館が行い利用者に提供する複製について書かれたものであり、利用者自身が複製を行うという文章ではありません。

利用者が三十条を根拠に複製を行う場合でも、図書館の資料を用いて複製を行う時点で「私的」利用とは言えないでしょう。
図書館という場所と機能は私的なものですか?

さらに、『第三十条と第三十一条のどちらを利用して複製する方が「得」なのだろうか』という論題は、言い換えれば『第三十条と第三十一条のどちらを利用した方がより著作者の権利を侵害できるか』ということなりませんか?
ceekzさんは法律違反を助長するためにこの投稿を書いたのでしょうか?

投稿者 ナガイ : 2008年07月16日 00:06