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2008年09月15日
新聞記者 疋田桂一郎とその仕事
書店で見かけて面白そうだったのだが、後ほど Amazon.co.jp で購入。手持ちがなかった…。
1950年代から社会部記者として活躍し、数々の「名記事」「話題の記事」を世に問い、天声人語を担当もした一人の新聞記者。その名を不朽のものとしたのは、ある事件記事の徹底的検証だった。その全文をはじめ、歴史的事件記事を通じて、ひとりの新聞記者の仕事の足跡をたどる。
Amazon.co.jp に書かれた紹介文より。
副題からは想像できなかったのだが、本書は、朝日新聞の名物記者であった疋田桂一郎が書いた記事を淡々と再掲載している。論評もなければ、時代背景や事件背景の解説もない。当時の記事が淡々と…。
ある事件記者の間違い
書店で見かけ、面白そうだと思ったのは、この記事を見たからだ。第三章(新聞のあり方を問う)の記事であり、朝日新聞の社内報(『えんぴつ』153号、1976年9月25日)に掲載された記事の再録である(厳密には『調研室報』の再々録)。
ある事件とは、昭和50年5月に起こった“殺人事件”である。
東京の、とある銀行の支店長が、殺人犯として警察に逮捕された。支店長の家に重い心身障害のある幼女がいて、その子を「餓死させた」という容疑だった。
彼は銀行を辞め、起訴後、釈放になって自宅から公判廷に通っていた。逮捕から九ヶ月後、七回目の公判で懲役三年、執行猶予五年の判決をうける。ところが、判決を聞いたあと、彼は裁判所から自宅に戻って来なかった。その日の夕方、小田原の無人踏切で電車に飛び込んで自殺をとげていたのだ。
彼はなぜ死ぬことになったのだろうか。彼の妻の談話によれば、1ヶ月後に釈放され自宅に帰ってみたら、“事実”とは全く異なる報道が行われており、生きる力をなくしてしまったという。そう、報道が彼を殺してしまったのだ。
疋田氏は、事件調書などから、なぜ“真実”と異なる報道が行われたか、また、どうすれば彼を救うことが出来るかを説いていく。詳細は、是非、本書を手にとって読んで欲しい。
最近、新聞の信頼性というものが非常に落ちてきてしまっているような気がする。疋田氏は、30年以上も前に提言を行っているが、改善されていないように思う。
氏によれば、戦前は「記事審査」と呼ばれる、今日では「訂正」に相当する調査・報告が行われていたらしい(事前審査ではない)。記事には誤りがあることを前提に、読者が誤りを見つけたならば、遠慮せずに報告をして欲しい、報告があれば速やかに調査し、紙面で発表するという趣旨であったようだ(月次報告も行っている)。自社の記事を信じる余り(取材法の発達により記事そのものの信頼性は上がっていると思う)、独りよがりになってしまったのだろうか。
丁度良い関連書籍があった。最近の問題点を挙げているが、両方読めば、昔から続いていると言うことが解るだろう。
ネットでは余り注目されていないが(技術系記事ばかり読んでいるから気付かなかっただけか)、かなり良本だと思う。新聞の信頼性に疑問を持っている方、美しい記事を読みたい方は、是非手にとって欲しいと思う。
ページ数: 293
読書時間: 3:59 (1.23 p/min)
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2008年09月15日 23:32 | Books